障害者雇用で一番むずかしいのは、求人を探すことではありません。
「どんな配慮が必要ですか」と聞かれたときに、答えられるかどうかです。
私は長いあいだ、ここで詰まっていました。「体調に波があります」としか言えなかったからです。
この記事では、配慮事項を伝えるための整理のしかたを書きます。
先に結論
配慮事項は、3つの層に分けて書くと伝わります。
- 何が起きるか(事実)
- どうなると困るか(影響)
- どうしてもらえると働けるか(依頼)
この3つが揃っていないと、相手は判断できません。
逆に揃っていれば、企業側は「うちでできるか」を検討できます。配慮は、企業が想像で用意するものではなく、申し出があって初めて検討が始まるものだからです。
前提:配慮は「お願い」ではなく「制度」です
障害者雇用促進法では、事業主に合理的配慮を提供する義務があります。
ただし条件が2つあります。
1. 本人からの申し出が起点になる
企業が勝手に察してくれることはありません。伝えなければ、配慮は発生しません。
2. 「過重な負担」にならない範囲で行われる
会社の規模や費用を考えて、現実的にできる範囲での対応になります。何でも通るわけではありません。
この2つを知っておくと、伝えるときの気持ちが少し変わります。
わがままを言っているのではなく、法律が想定している手続きを踏んでいる。 そういう位置づけです。
伝わらない書き方と、伝わる書き方
具体例で見ていきます。
例1:体調について
伝わらない
体調に波があります。
これだけだと、相手は何も判断できません。どのくらいの頻度で、どういう影響が出るのか分からないからです。
伝わる
月に1回、平日に通院しています。前月中に日程が決まるので、事前に共有できます。当日の急な休みが必要になることは、直近1年でありませんでした。
事実、影響、対応可能性。この3つが入っています。
例2:環境について
伝わらない
音に敏感です。
伝わる
常に大きな音が出ている環境だと、集中が続かず作業の精度が落ちます。イヤーマフの使用を許可していただけると、通常どおり作業できます。
「困ります」で終わらず、「こうすれば働けます」まで書くのが要点です。
例3:指示の受け方について
伝わらない
曖昧な指示が苦手です。
伝わる
口頭でまとめて複数の指示を受けると、順番が分からなくなることがあります。チャットやメモなど、文字で残る形でいただけると、確認しながら進められます。
3つの型
そのまま使える形にしました。
型A:定期的に必要なもの(通院・服薬など)
【状況】〇〇のため、月に△回の通院があります。
【影響】通院日は勤務時間の調整が必要です。
【依頼】日程は事前に共有しますので、その日の勤務時間を調整させていただけると助かります。
型B:環境に関するもの(音・光・席など)
【状況】〇〇のある環境だと、△△という状態になります。
【影響】その状態が続くと、作業の精度が落ちます。
【依頼】□□していただけると、通常どおり業務を行えます。
型C:業務の進め方に関するもの
【状況】〇〇の場面で、△△になることがあります。
【影響】確認が必要になり、進行が遅れる可能性があります。
【依頼】□□という形にしていただけると、自分で対応できます。
どの型も、最後が「できません」ではなく「できます」で終わっています。
ここが大事なところです。配慮事項は、制限の説明ではなく、働ける条件の説明です。
面接での伝え方
聞かれるタイミング
たいていは面接の後半です。「配慮が必要なことはありますか」という形で聞かれます。
その場で考えると、まず出てきません。事前に書いたものを持っていって構いません。
メモを見ながら話すことに問題はありません。むしろ、整理してきた人だという印象になります。
数は3つまで
10個並べると、企業側は「対応が大変そうだ」と受け取ります。
絶対に必要なもの3つに絞ってください。あとから追加することはできます。
優先順位のつけ方は、「これがないと続けられないか」で判断します。あったら嬉しい程度のものは、入社後に相談すれば十分です。
「特にありません」は避ける
遠慮して「特にありません」と言ってしまうことがあります。
ただ、障害者雇用枠の求人に応募している時点で、企業側は配慮を前提にしています。何もないと言われると、かえって不安にさせます。
小さなことでも1つは挙げたほうが、話が前に進みます。
厚生労働省の「就労パスポート」を使う手もあります
自分で一から整理するのが難しい場合、公式のツールがあります。
厚生労働省が作成している**「就労パスポート」**です。働くうえでの自分の特徴や、希望する配慮を整理するための様式で、無料で使えます。
記入する項目はこうなっています。
・職務経験
・仕事上のアピールポイント
・体調管理と希望する働き方
・コミュニケーション面
・作業遂行面
このほかに「就職後の自己チェック」や、支援機関の情報を書く欄もあります。
使い方の注意点
・作成も共有も、本人の自由意志です。義務ではありません
・採用選考で必ず提出しなければならない書類ではありません
・原本は自分で保管し、企業には写しを渡します
・支援機関と一緒に作ることが推奨されています
ハローワークの専門援助部門や就労移行支援で相談すると、一緒に作ってもらえます。
私の場合
正直に書くと、私は自分ひとりでは言語化できていませんでした。
「体調に波がある」としか言えず、それ以上のことを聞かれると黙ってしまう状態でした。
転職エージェントの担当者と話したときに、この整理を手伝ってもらいました。面接の前日に時間を取ってもらい、何をどの順番で伝えるかを一緒に考えました。
そのときに出てきた言葉が、いまも使えています。
一人で考えようとしなくていいと思います。 これは自己分析の作業ではなく、人に説明するための作業です。相手がいたほうが、うまくいきます。
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入社後に配慮を追加したくなったら
入社後に「これも必要だった」と気づくことがあります。
そのときは、直属の上司か、人事の担当者に相談します。
伝えるときは、面接のときと同じ3層で構いません。
【状況】この2週間、〇〇の場面で△△が起きています。
【影響】このままだと□□に影響が出そうです。
【依頼】××していただけると、対応できます。
「困っています」とだけ伝えると、相手も対応を決められません。具体的な依頼まで入れることで、話が動きます。
すべてが通るわけではありませんが、伝えていないことは絶対に変わりません。
よくある質問
Q. 診断名は伝えないといけませんか
必須ではありません。配慮が必要な理由を説明するために伝えることはありますが、診断名より「何が起きるか」のほうが企業にとっては重要です。
Q. 配慮を求めると採用で不利になりませんか
障害者雇用枠では、配慮を前提とした採用です。配慮事項があること自体は不利になりません。
ただし、整理されていない伝え方だと「対応できるか分からない」と判断されることはあります。だからこそ、伝え方が大事になります。
Q. 入社後に配慮が守られなかったらどうすればいいですか
まず社内の窓口(上司・人事)に相談します。解決しない場合は、ハローワークの専門援助部門や、障害者就業・生活支援センターに相談できます。
Q. どこまで伝えるべきか分かりません
「これがないと働き続けられないこと」を基準にしてください。あったら快適、という程度のものは後回しで構いません。
まとめ
・配慮事項は3層で伝える(何が起きるか/どうなると困るか/どうしてもらえると働けるか)
・最後は「できません」ではなく「できます」で終える
・面接で伝えるのは3つまで
・メモを見ながら話して構わない
・「特にありません」は避ける
・厚生労働省の「就労パスポート」が使える
・一人で整理しようとしなくていい
配慮事項を伝えるのは、自分の弱さを申告する作業ではありません。
どういう条件なら働けるのかを、相手と共有する作業です。
その整理ができていると、働き始めてからも楽になります。
※本記事の制度に関する記述は、厚生労働省の公開資料および障害者雇用促進法の内容にもとづいています。制度は変更されることがあるため、実際のご利用にあたっては公式サイトや窓口でご確認ください。

